三洋電機 最後のヒット商品「ゴパン」の全て (2/2)

2013年3月28日木曜日

コラム

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「SANYO」ブランド最後のヒット商品「ゴパン」の広報を担当した中の人として、誕生秘話をまとめてみた。第1回に引き続き、第2回になります。

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~ 全社を巻き込むゴパンの魅力(10年1月-10年7月) ~

10年1月、鳥取にある炊飯器やベーカリーの開発拠点で、後にゴパンと呼ばれる新商品プロジェクトの第1回打ち合わせが開催された。出席者は商品担当者だけでなく、私のような本社の広報をはじめ、宣伝、渉外など幅広い人間が招集された。このような規模の打ち合わせは珍しく、それほどこの商品にかける意気込みがあったということだ。

鳥取の事業所の写真

当時のゴパンはまだステンレス丸出しで、銀色の無骨な感じだった。名前も決まっていなかった。正直私は米パンに興味もなく、何が凄いのか分からないまま打ち合わせに臨んでいた。しかし、炊飯器のようにお米から直接パンが出来る技術的なイノベーションと、多くの問題を抱える農業に一石を投じる社会的な意義に衝撃を受けた。米パンベーカリーという新しい市場を創り出すことができる商品だった。

メーカーで働いていて一番幸せな瞬間だ。商品の魅力に感激するのは。それは会議に集まったそれぞれの担当者も同じだったようで、その会議の場で新しい市場を生み出し、大ヒットさせることを目標とした。

とは言うものの、予想価格を聞いたらちょっと腰が引けた。何しろ普通のホームベーカリーが3万円程度で売っているのに、5万円もするというのだから。確実に大ヒットすると明言できる人は居なかったのも事実だ。

まず決めなくてはならないのはネーミングだ。こういうことに疎い連中が集まっても建設的な話にはならない。いつの間にか冗談で言っていたゴパンというネーミングが一人歩きし始めた。社内ではジョークっぽいから名前として不適切という声もあったが(私もその1人)、広告代理店の賛同もあって、正式にゴパン(GOPAN)というネーミングに決まった。

毎月1回、鳥取と東京、大阪を繋いでプロジェクトMTGを開き、各部署の進捗を共有していった。目指すは新市場開拓。多くのアイデアが出た。ゴパンという名前にあやかって販売目標を、半年で58,000台に決定。発売は10月8日お米の日すること。社長出席の一大記者発表会を行うこと。農林水産省の幹部にも発表会に出席してもらうこと。発表直後に試食ができる「GOPAN Cafe」を企画すること。本当に多くのアイデアが生まれ、準備に追われた。この頃には日経MJのヒット商品番付の「横綱」が目標になっていた。



~ 大反響を呼ぶゴパンの強運(10年7月-10年11月) ~

7月13日、一流ホテルであるフォーシーズンズ椿山荘でゴパンの記者発表会は行われた。農林水産省からは佐々木隆博大臣政務官に出席いただき、NHKと民放5局、一般紙、地方紙、WEBなど幅広いメディアで取り上げられ、まさしく大成功となった。

ここから想定を上回るゴパンの躍進が始まる。発表後、マスコミやWEB上で大きな反響が起き、お客様センターには問い合わせが殺到した。さらに量販店からも注文が殺到、半年の生産台数58,000台を大幅に上回り、発売日10月8日の初回出荷台数では全国の店頭に並べることができず、混乱が発生する可能性が出てきた。急遽プロジェクトMTGが開かれ、発売延期の検討がなされた。1ヶ月間発売を遅らせることで、全国の量販店の店頭に十分な台数を納品できるよう調整がなされた。

結局発売日は11月11日となり、8月20日に発表された。ここでゴパンの強運が発揮される。なんと同日に日清食品の「カップヌードルごはん」も販売休止の発表を行ったのだ。さらに8月10日にサントリーの「オールフリー」が販売一時中止など、相次ぐヒット商品の販売中止のニュースでゴパンはさらにメディアを賑わすことになった。

ちなみに、7月21日から9月末まで表参道で実施していた「GOPAN Cafe」はどうだったかと言うと、こちらの反響もすごかった。オープン当日から2週間ぐらいは開店前に行列が出来ていた。わざわざ広島から来られている農家の方にもお会いした。北魚沼産の新米とコラボしたイベントを行ったり、まさにゴパンに関する情報を発信するアンテナショップ的な役割を果たしていたと言える。

GOPAN Cafeの写真



~ ゴパンがもらった沢山の賞(10年11月-11年1月) ~

ついに11月11日を迎え、ゴパンは発売された。量販店に予約を入れていたお客様に優先的に商品が渡され、店頭には1台も並ばない状況だった。これもまたメディアで報道された。するとまたも緊急プロジェクトMTGが招集された。内容は発売前の予約を含めると、たったの2週間で半年分の生産台数58,000台を超える注文があり、お客様へ商品をお渡しできるのが半年以上先になってしまう異常事態が発生しているというのだ。メーカーが直接販売しているわけではないので、予約台数の管理も難しく、やむを得ず注文受付を一時見合わせることを決定。11月25日に発表した。

多額の費用を使って江角マキコさんを起用したCMも制作されていたが、放送されたのはわずか数日で、幻のCMとなってしまった。嬉しい悲鳴というのはこういうことだ。

商品の注文は受け付けていないものの、完成した商品から随時お客様の手元にお届けされていく中、メディアの報道は続き、最終的には沢山の賞をいただいた。私が知っているだけでも、次のとおりだ。
・2010小学館DIMEトレンド大賞『ライフスタイル賞』
・日経MJ2010年ヒット商品番付『技能賞』
・日経優秀製品・サービス賞2010『最優秀賞・日経MJ賞』
・フード・アクション・ニッポン アワード2010『大賞』
・TBSテレビ がっちりアワード2010『ヒット商品部門 大賞』
・雑誌デジモノステーション デジモノオブザイヤー『シロモノ家電部門:部門賞』
・日刊工業新聞 2010年度 読者が選ぶ ネーミング大賞『大賞』
・日本マーケティング協会 第3回日本マーケティング大賞『奨励賞』

これら報道やイベントの度に大量の試食用ゴパンを焼く必要があり、三洋電機社内にはゴパン焼き部屋が用意され、ゴパンの香ばしい匂いが社内に充満しているという滑稽な状況が繰り広げられていた。

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